国際環境NGO FoE Japanでは京都議定書目標達成計画(案)(以下計画案とする)につきまして以下の内容の意見提出を致します。
はじめに
地球温暖化対策推進大綱の見直しも含め計画案前段で触れられております通り、長期的な温室効果ガスの大幅削減の為には現在の産業のあり方から市民生活全般に至る迄、抜本的な変革を要するものです。第一章の基本的考え方でも触れられている通り、その為には市民一人一人の理解と参加意識、そして持続した行動が不可欠です。今回の計画づくりは長期対策の本格的な第一歩ともなるもので、温暖化対策推進センター等も通じてパブリックコメントの案内をされている事と存じますが、2週間と言うコメント期間は市民社会の中で意見を募るにも短いものです。また単に案内.通知だけではなく、当計画の様な重要な施策に於いてはその都度、地方や関心ある市民の方々を集め積極的に意見聴取を行い結果に反映させる温暖化対策に特化した継続した場づくりが整備される必要が在ります。
国としての長期的な温暖化政策の目標を明示する必要性
5頁の前段では国連気候変動条約第2条の温暖化対策の究極的な目標について触れられていますが、第一章で触れられるべき日本として目指す長期的な目標の必要性には計画案中で触れられておりません。国際団体では共通で各国に産業革命前の全球平均気温から今世紀末迄に2度未満の上昇に抑えることを目標に求めております。それでも緯度の比較的高い日本へはより大きな気温上昇となる事が予想されますが、その様な長期的な国としての目標設定無しに可能な施策を積み上げる形では、国民各界の異なる利害や見解をまとめられず抜本的な対策を導入する事は困難かと考えます。従いまして2012年迄の第一約束期間をにらんだ計画であっても、9頁の第一章・基本的方向性の2.地球的な長期的継続的な削減の中で、国としての長期的な目標設定の必要性及び既に欧州諸国が採用している2度未満の目標について言及されることが望まれます。
自然エネルギーと脱化石燃料依存のより積極的な促進について
全体として太陽光や風力と言った自然エネルギーの強力な導入や長期的な化石燃料依存からの脱却といった視点が弱い様に見受けられます。10頁の第二節基本的考え方冒頭の総論的な環境と経済の両立の所でも、取り分け自然エネルギーと輸入に頼る化石燃料からの脱却への言及を求めます。続く技術革新の促進でも、未利用エネルギーと言うだけでなく、自然エネルギーの一言を加えて頂く様望みます。第三章対策と施策の第二節38頁eのエネルギー起源の省CO2化で、化石燃料の環境調和型利用だけでなく長期的には脱化石燃料社会へ向かわねばならない旨の追記願う様希望します。また新エネルギー促進では導入の促進、円滑な促進、「RPS法の着実な施行」との表記に留まることなく、更なる導入目標の見直しを行い発電総量に対する意欲的な目標値を望みます(37頁)。
なお原子力発電は巨額の研究開発費を要するだけでなくコスト効率、エネルギー安全保障の面からも段階的な廃止へと向かうべき技術で、最近の相次ぐ事故と世論の不信の中で増設を謳うは非現実的ではないでしょうか(35頁)。
廃棄物について
30頁の未利用エネルギー等の有効利用にある「廃棄物焼却等の廃熱の利用を促進」および37頁の電力分野の二酸化炭素の排出原単位の削減にある「廃棄物発電の導入促進」は、焼却炉の大型化、燃料としてごみの増加を求める構造となることを懸念します。また「廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用を推進し、廃棄物の焼却に伴う二酸化炭素の排出削減を進める」ことは望ましいですが、廃プラスチックに関して、直接埋立てせずに焼却の原則方向で意見具申が出されていることと矛盾しています。^
エネルギー起源と産業界への排出削減対策の強化の必要
13頁の図3部門別の二酸化炭素排出量を見ましても、業務・運輸部門の直接排出量を除いた間接排出量分を合わせ日本の排出量の7割弱がエネルギー転換、産業部門の排出となっております。これら大規模事業者への施策強化が抜本的な排出量削減に不可欠であり、この点、第二章第二節対策と施策の26頁、エネルギー起源二酸化炭素の5つの基本的考え方の5番目効果的な取り組みの所は需要サイドの排出傾向に基づいていますが、このような供給サイドから見たエネルギー転換・産業界部門対策の重要性も併記されるべきかと存じます。また基本的考え方の中で、日本が進んでいる省エネの需要対策を率先することは大切で原単位の改善も重要な点その通りでございますが、国内排出量取引等総量規制に基づく横断的施策にも積極的に検討して頂きたい所です。
また、第三章第二節の対策及び施策の温室効果ガスの施策面では、続く各施策で省エネ法強化を除き、自主的取り組みの促進.強化やモデル事業の実施にとどまっているように見受けられ、燃費、建物基準の強化等規制手法や財政面での担保もなく効果に疑問が残ります。34頁での産業部門の取り組みでは自主行動計画の実施を望むだけではなく、ドイツ等に見られます様に、目標が達成されなかった場合の政策的な担保の必要性に言及してもらいたいところで^す。
第三章の2.横断的施策では57頁の(1)排出量の算定報告公表制度整備は極めて重要なステップと考えております。又それを進め62頁の(6-3)で紹介されております国内排出量取引制度は環境税と並ぶ重要な効果的横断的施策となり得るもので、自主参加型という限られた形のみでなく、将来の部門別の排出量取引の可能性にも触れて頂く様願います。
建築物や住宅の省エネルギー性能向上における欠落視点について
計画(案)33-34頁における建築物や住宅の性能における省エネルギー対策に、建築物建造時や建築資材製造時の省エネルギー対策が欠落しています。吸収源対策のために木材利用の推進が謳われていますが、木材と非木材とを比較すると、資材製造時、および建造時の温室効果ガス排出量は、木材使用時が格段に少なく、さらには長期的に温室効果ガスを固定することができます。したがって、資材の調達から解体・廃棄までのいわゆるLCA的な評価手法が不可欠であり、その評価に基づく木材利用推進を図ることで、温室効果ガス排出量の削減に取り組むことが重要です。また家庭に於ける高効率給湯器等省エネルギー機器の普及支援・技術開発のなかでは、近年普及度が下がっている最も持続可能な太陽熱温水器(ソーラーコレクター)を見直し、言及するべきです。
温室効果ガス吸収源、吸収量の算定、および吸収源対策について
計画案18頁にある森林経営による温室効果ガス吸収量算定における、例えば本計画(案)第2章2節の表3「エネルギー起源二酸化炭素の各部門の目安としての目標」に準じたもののような明確な根拠、内訳の明示がないため、3.9%という算出値の根拠が不明瞭です。今後、実施される取組みの公正な評価を確保するためにもその根拠を明示する必要があります。
また計画案48頁にある必要な対策における森林整備と木材利用推進とにおいて、環境に配慮した持続可能な森林経営から生産された木材利用の推進という視点が欠けています。持続可能な森林経営を支えるのは持続可能な木材利用であり、この両立により対策効果が得らます。また地域材振興のみならず、国産材の利用促進のために、全国規模の市場が要求する品質や性能(含水率、寸法精度、強度)、価格、そして供給体制の整備等も持続可能な木材利用の実現には不可欠です。
バイオマス利用推進における考慮点について
計画案49頁のバイオマス利用推進は、資源リサイクルを目的とした地域モデルに適したものであり、大規模モデルにおける代替エネルギーとして捉えることは、大規模、大量なエネルギー供給施設と資源調達を必要とし、持続不可能な森林伐採による安価な木材調達や、不適切な農産物過剰生産による農地転換を加速させることになり、さらなる森林劣化・減少、自然破壊を生むことが考えられますので、事業計画に対する十分な環境影響評価とモニタリングの実施が必要です。
円滑な道路交通を実現する体系の構築(28頁)
「環状道路等幹線ネットワークの整備、交差点の立体化、連続立体交差等による踏切道改良等を推進」とありますが、快適な自動車環境づくりは、二酸化炭素削減効果よりもむしろ、より多くの自動車利用、「クルマ中心社会」を生み出すと思われます。道路整備においては、より自転車に乗りやすい道路整備等を行うべきであると考えます。また排出量が急成長している航空機に関しては、具体的な対策が見られない点も再検討願います。
情報開示と国、事業者の役割
排出内容や排出量の把握、情報の開示は第三者に拠る検証やより透明性かつ信頼度の高い計画づくりに不可欠です。国の各機関の役割が23頁から始まる第三章第一節で触れられておりますが、その(1)総合的推進にあたりましては、国内だけでなく国に拠る海外開発援助の影響についても触れられる必要がごさ^ます。この点で、国の各機関は...施策の実施にあたって、「温室効果ガス排出量を含むデータ・情報の開示と、」排出の抑制に..として頂く様要望します。日本の開発援助は化石燃料系技術に偏重しており、途上国で急増する排出量増大傾向に一定の役割を果たしています。国内対象の公的機関だけでなく、米国の海外民間投資公社(OPIC)に習い、国際協力銀行が融資する途上国における事業による排出量増加見込みについても情報開示を行うよう望みます。
また同様の視点から第三章第二節、3.基盤的施策の65頁にある(4)国際的連携の確保、国際協力推進に於かれましても、第一段落末尾に、「国際協力銀行を通じた開発支援に於いてもその事業国の排出量に影響を与えるものである事に鑑み、排出量に関する情報開示と代替技術が在る限りに於いて排出抑制に努める」として頂く様望みます。なお同じ(4)国際連携では、第一段落で議定書未締約国に締結をはたらきかけるくだりで、取り分け世界最大の温室効果ガス排出国である米国と一人当たり排出量が最も高いオーストラリアへの言及頂く様願います。
さらに、59貢(4)公的機関の率先的取組の基本的事項におきましては、「公的機関に対し…率先した取組を促す」と記載されており、具体的な取組みについて明記されておりません。国際協力銀行や日本貿易保険など、海外での化石燃料開発に大きな役割を果たしている機関については、「再生持続可能エネルギーへの積極的な支援の転換を図る」として頂く様望みます。
また温暖化の被害が深刻化している途上国への支援で日本は遅れをとっておりますが、それに関連して第四段落の適切な適応対策等への支援においては、実質的な適応支援がまだ為されておらず国連条約下での適応対策の中核となる後発途上国基金や気候変動特別基金にも出資表明すら行っていない日本の現状では、「支援を引き続き行う」は適切でなく「(積極的な財政拠出も含め)強化を図る必要が在る」として頂く様願います。
事業者の情報開示も国機関のそれ同様重要ですが、24頁の3.事業者の役割では排出量把握には言及されているが、取り分け排出量や排出内容に係る情報開示の必要性に触れられておりません。排出抑制措置の推進だけでなく、計画策定や実施状況点検に於いて可能な限り排出量その他の情報開示に努め、事業者自身だけでなく第三者による監査を可能とし国や公政策の策定に資することが盛り込まれる必要があります。
京都メカニズム
第二章の目標の所で、基準年総排出量費1.6%分を京都メカニズムで確保、変動もあり得るとありますが、京都議定書の精神と先進国が率先して排出量削減を行うとの国際原則に基づき、出来る限り国内での排出量削減に努める旨を改めて明記願います。第三章対策と施策に於ける53頁(3)京都メカニズムの部分ですが、民間投資が期待されるにも拘らず日本の基盤整備は欧州諸外国に比べ遅れている様見受けられます。2008年から始まる共同実施に於いても今から体制づくりの見通しを明らかにし、投資家が早期に見通しを持てる様する事が効果的な温室効果ガス排出削減事業実現に欠かせません。一方、既に見込みで報道されているクリーン開発メカニズム(CDM)事業は温室効果の高い非二酸化炭素系技術、取り分けフロン系の回収リサイクル事業で大量のクレジットを見込む事業に投資が偏向する傾向が見られておりますが、その様な事業では特定分野の特殊技術の移転にとどまり、ホスト国の持続可能な開発に十分貢献できないとする強い懸念が途上国より挙げられております。また吸収源を使った植林再植林CDM事業ではブラジルで世界銀行が実施しようとしている様な事業に見られる通り、地元住民の合意が得られておらず、やはり持続可能な開発の点から懸念が残るものです。CDM制度の原則は先進国の排出量削減に貢献するとともにホスト途上国の持続可能な開発に寄与することが不可欠の原則となっておりますのは御承知かと存じますが、計画案ではクレジットの収得のみが強調され、持続可能な開発への言及は1ヶ所のみとなっております。この点改めて重要な原則としての明記を願います。なお55頁にはODAの使用言及がされておりますが、公的資金でCDMクレジットの購入を行わない旨は京都議定書マラケシ合意で明記されたものですので、複雑で微妙な同合意を覆す危険があります。ODA転用は避ける旨の明記と、活用には可能な環境整備等慎重な対処を御願い致します。
終わりに
71頁で今を生きる我が世代の責務という項目を入れられたことは大変よいのではないでしょうか。又同時に「将来の世代が我が世代と同じように生きる権利」にも言及されてはいかがでしょうか。
以上、FoE Japanとしての見解をここに提出致します。
2005年4月13日
国際環境NGO FoE Japan
(www.foejapan.org)