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RWESA-Jダムセミナー報告 『日本と東南アジアのダム:改めてその必要性を問う』

2004年4月5日、水道会館にてRWESA-Jの主催により、ダムセミナーが開催されました。FoE Japanからは波多江秀枝が、マレーシアのケラウダム問題の現状について報告を行いました。

以下は、水源連の氏家雅仁氏がまとめたダムセミナー報告(「水源連だより」No.28に掲載)です。





『日本と東南アジアのダム:改めてその必要性を問う』
RWESA-Jダムセミナー報告

水源連事務局 氏家 雅仁


第1部 日本と東南アジアのダムの実例

1 八ツ場ダム問題「首都圏でも脱ダム宣言を!」  発表者:嶋津 暉之(水源連)

2 マレーシア: パハン・セランゴール導水事業(ケラウダム問題) 発表者:波多江 秀枝(FoE-J

3 ラオス: ナムトゥン2ダム「ダムが貧困をなくす?」 発表者:松本 悟(メコン・ウォッチ)

4 〜Rives for Life〜 第2回ダム影響住民国際会議の報告 発表者:氏家 雅仁(水源連)

第2部 パネルディスカッション ―公共事業としてのダム、援助としてのダム―

  >ディスカッション内容


 4月5日、RWESA-J主催によるダムセミナーを開催した。以下、当日のメモから報告する。

 今回のセミナーの目的は、水源連、メコン・ウォッチ、FoE-Jのそれぞれが取り組んでいるダム問題の合同学習会を開催し、交流・連携を深める事にあった。当初は身内の小さな学習会として企画していたが、予想外に六十名以上の人が参加者し、資料が足りないほどの盛況だった。

 セミナーの第一部では水源連、メコン・ウォッチ、FoE-Jが、それぞれ取り組んでいるダム問題について発表を行った。

第1部 日本と東南アジアのダム問題の実例

1 八ツ場ダム問題 「首都圏でも脱ダム宣言を!」  発表者:嶋津 暉之(水源連)

日本と、利根川・荒川水系におけるダム開発の状況

 日本では、1997年から現在まで約100のダム開発事業が中止となったが、いまだ二百数十のダム事業が建設・計画されている。日本におけるダム開発予算の総額は年々減り続けてきているが、現在もまだ年間3800億円もの予算が使われている。

 利根川・荒川水系では、これまでに13のダム・河川開発事業が中止となっており、脱ダムの方向に向かっている。しかし、いまだ6つのダム・河川開発事業が進行中である。


八ツ場ダム建設事業費は日本一高額

 今回取り上げた八ツ場ダムの事業費は約4600億円と突出しており、日本一高額なダム開発事業が進められている。この事業費は、昨年末に2100億円から4600億円に約二倍に増額された。八ツ場ダム事業費約4600億円に周辺対策費等を加えると5846億円となり、借入利子を加えると総額8769億円もの負担となる。このうち半分は国税から支出され、残り半分は受益予定の6都県の地方税から支出され、莫大な八ツ場ダム建設のために納税者は負担を負うことになる。


八ツ場ダムの必要性の検討: 利水上、八ツ場ダムは必要ない

 八ツ場ダムの目的は、都市用水の開発と洪水調整。貯水量約1億トンのうち、6500万トンが洪水調整、2500万トンが夏季の利水容量となっている。 利根川流域6都県における利水上の必要性を検証してみると、工業用水・水道用水の需要は横ばいで、全体の水需要も横ばいから減少傾向にあり、1日最大給水量は過去十年減り続けている。1日一人当たりの給水量も100リットルも減っており、これは節水機器の普及と漏水対策によってもたらされた結果で、今後も減少してゆく傾向にある。

 人口も2010年から減少してゆくと予想されるので、水需要は減ってゆく事になり、水余りの時代となりつつある。利水上、八ツ場ダムは必要ない。

 渇水時における利根川の流量は、森林から7割が流出しており、ダムからの供給は3割に過ぎない。利根川の流量を考えても、渇水時におけるダムによる寄与は少なく、八ツ場ダムが無くても利根川に水は流れている。


八ツ場ダムの必要性の検討: 過大な洪水流量が想定されている

 洪水調整を検討すると、八斗島基準地点での計画高水は2万2千m3/S(200年に1回の洪水流量)、基本高水1万6千m3/Sとされている。過去最大の洪水流量は、1946年のカスリーン台風時に1万7千m3/S(推定値)とされているが、過去50年間1万m3/Sを越える洪水は発生していない。カスリーン台風当時は戦時の森林伐採のために森林が荒廃しており、本来の保水力を失っていた。しかし、現在は森林が回復しており、森林による治水能力が回復しており、2万2千m3/Sもの大きな洪水は来る訳がない。ダム建設のために、来るはずが無い過大な洪水流量を設定しているに過ぎない。計画されている河道整備・堤防整備を行えば、洪水を防ぐことが出来る。


八ツ場ダムの引き起こす様々な影響

 八ツ場ダムが建設されると、吾妻渓谷の喪失、水質の悪化、地すべり災害の誘発、川原湯温泉街の移転など影響が出る。

 川原湯温泉は、ひなびた温泉としての風情で観光客が集まってきた。ダム建設計画が発表された1952年以来、地元では数十年もダム建設反対を続けてきたが、現在は疲れ果てている。都市部から八ツ場ダム建設反対の声が上がっても「いまさら」と言う声も出ている。

 ダム建設計画に翻弄された川原湯温泉街などの地元の再建を進めることなしに八ツ場ダム建設中止は無い。地元の再建のための費用は、ダム事業者と受益6都県が負担すべきである。今後、地元も含めた反対運動を進めて行きたい。



2 マレーシア: パハン・セランゴール導水事業 (ケラウ・ダム問題) 発表者:波多江 秀枝(FoE-J)

本当に必要な事業なのか?

 マレーシアの首都クアラルンプールがあるセランゴール州(人口560万人)では、2005年に水の供給不足に見舞われる、との水需要予測をマレーシア政府は発表している。このため、ケラウダムを建設し、一日23億リットルの水を供給するダム開発計画を政府は提案している。

 ケラウダムは、セランゴール州の隣のパハン州に建設が計画されている、高さ90mのダム。ダムからセランゴール州までは8kmのパイプラインと45kmの導水トンネルで水が送られる計画になっている。

 ケラウダム建設の根拠となっている文書「マレーシア国家水資源調査」は非公開となっている。マレーシアでは情報秘密法という法律がある。情報公開法では無く、情報秘密法だ。


不明瞭な水需要予測

 ダムの根拠となっている水需要予測の方法論や詳細な基本データについても、非公開・不明となっている。マレーシアのNGOは予測値が高く見積もられている可能性があると指摘している。

 マレーシアでは、約40%もの非常に高い無収水率の現状がある。漏水や盗水等により、約40%の水が送水中に失われている。この高い無収水率が適切に考慮されているかは疑問。

 また、経済成長や人口増加の予測が適切であるかどうかも疑問である。


代替案の可能性: 包括的な水需給管理政策

 マレーシアのNGOは、包括的な水需給管理政策の必要性を訴えている。約40%もの非常に高い無収水率を減少させる必要がある。日本やシンガポールの無収水率は10%以下であり、老朽配水管の修復等により大幅な低減が期待できるとしている。

 一方で、マレーシア政府は、水需給管理計画だけでは水不足に対して不十分であるとしている。無収水率は2020年までに30%ほどまでしか低減できないとしている。

 NGOは、仮に新しい水源開発が必要であっても、既存のダムからの導水(北部ペラック州・トレンガヌ州からの導水)は、生態系への影響や事業費を最小限に抑えられる代替案であり、費用も概算で207億2000万円〜840億円となり、ケラウダム事業費(約800億円)よりも安価か同等であるとしている。これに対して政府は、北部ペラック州・トレンガヌ州からの導水は高額(約980億〜3276億円)と概算している。


日本から820億4,000万円?

 2003年3月31日、日本からのODAの前提として、日本政府がマレーシア政府と交換公文を締結した。(限度額820億4,000万円)この多額の供与額は、日本の政府開発援助(ODA)の開始以降50年間に行なわれたプロジェクト借款の中で、最高額となる。

 莫大なODA額にもかかわらず、事業の必要性を調査した文書『パハン・セランゴール導水事業E/Sに係る案件形成促進調査(SAPROF)最終報告書』は、日本でも非公開となっている。


ケラウダム建設による社会環境問題

 ケラウダムが建設されると、森林保護地域が水没し(水没予定地は4,090ha)河川生態系は大きな影響を受ける。

 ケラウ川に隣接する村には、先住民族オラン・アスリの人々325人が暮らしている。この村は水没しないにもかかわらず、村人は政府から立ち退きを命令されている。村からの立ち退きを拒否すると補償すら行わないと、脅かされている。


ケラウダム建設の問題のまとめ

 WCDやJBICのガイドラインと照らし合わせると、ケラウダム建設プロセスには以下の重大な問題点がある。

(1)「ニーズと代替手段の十分な評価」がなされていない(WCDガイドライン)

(2)「影響を受ける先住民族の十分な情報に基づく事前の自発的同意」がない (WCDガイドライン)

(3)「情報」の不開示/「協議」の形骸化(JBICガイドライン)



3 ラオス: ナムトゥン2ダム 「ダムが貧困をなくす?」 発表者:松本 悟(メコン・ウォッチ)

 ナムトゥン2ダム計画は、現在、国際的にもっともホットな論争を巻き起こしているダム計画。このダム建設には、世界銀行が建設資金の支援を検討しており、世界銀行が事業進行のキーとなっている。世界銀行の本部があるワシントンでは、このダム計画をめぐって様々な動きが起きている。

  ナムトゥン2ダムは「ダムが貧困を解決する」「ダムが環境を改善する」とのうたい文句で進められている。今日の発表では「ダムが貧困を解決するのか?」と言う点について取り上げる。


ナムトゥン2ダム計画とは

 メコン川は、タイ・ラオス国境を流れている国際河川。ナムトゥン2ダムは、メコン川の支流トゥン川(ラオス中部を流れている)に建設が予定されている。トゥン川の流域面積は14,000平方キロで、日本の石狩川に匹敵する、メコン川の支流。ナムは川、トゥンは高いところを流れる、と言う意味。

 ナムトゥン2ダムは、高さ48m、幅325mのコンクリート重力式ダム。発電目的のダムで、995MWの電力をタイへ輸出し、ラオス国内へ75MWを供給する計画になっている。

 このダム建設はBOT方式をとっており、ダム完成後、ダムによる発電が25年間運転された後、ラオス政府に譲渡される計画になっている。


自然を食らう・森はお金の要らないスーパーマーケット

 トゥン川に暮らす人々は、自然を食らって生きている。木の上に巣を作るアリの卵、ヘビ、バッタ、コオロギ、コウモリ。動物は全てを漢方薬として利用し、捨てるところが無い。

 人々は森の中にはえる様々な植物を食べている。例えばタケノコ。森はお金が必要ないスーパーマーケットとして利用されている。


生業は焼畑と水田耕作

 人々は、焼き畑農業と水田耕作で生計を立てている。

 川の水位変動は、日本では洪水として災害をもたらすが、雨季と乾季があるラオスでは状況が全く異なっている。渇水期の川辺を利用して野菜を育てている。また、漁業も営まれている。多くの魚が、メコン川本流とトゥン川を行き来している。たとえば、カンボジアからメコン川を遡上してきた魚が、ラオスのトゥン川で産卵し、また川を下ってゆく。人々は回遊する魚を食べている。

 ダムにより川の水位がコントロールされると、洪水は無くなるが、人々の営みは大きな影響を受ける。

貯水池は琵琶湖の3分の2の面積: 広大な面積で影響が起こる

 ナムトゥン2ダムの貯水池は45,000ha(450平方キロ)の面積で、琵琶湖の3分の2の面積を水没させる事になる。このため、少数民族を中心に5,700人の住民が立ち退きを迫られる事になる。

 ダムによる影響は水没地だけにとどまらない。ナムトゥン2ダムは導水型の発電ダムで、発電で使われた水は、トゥン川の水は流域を越えてセバンファイ川に流れ込むことになる。このため、トゥン川の水は枯れてしまう。一方で、セバンファイ川は毎220立方mの増水となる。

 ナムトゥン2ダムが完成すると、移転を迫られる5,700人に加え、トゥン川・セバンファイ川の流域では4万人〜12万人が影響を受けることになる。


プロジェクト推進体制

 このダム建設はBOT方式をとっており、ダム完成後、ダムによる発電が25年間運転された後、ラオス政府に譲渡される計画になっている。

 ダムの建設と25年間の発電は、ナムトゥン2電力会社が行う事になる。この公社は、フランス電力公社(35%出資)・ラオス電力公社(25%出資)・タイEGCO社(25%出資)・イタリアン・タイ開発会社(15%出資)の4社から構成されている。

 ナムトゥン2電力会社は、ラオス政府との譲渡契約、タイ発電公社・ラオス電力公社と売電契約を結ぶ事になる。

 事業規模は約13億ドルが予定されており、ナムトゥン2電力会社が3億5千万ドルを負担し、残りの9億5千万ドルは、世界銀行・アジア開発銀行・・欧州投資銀行・輸出信用機関(COFACE-仏)・民間銀行の融資が検討されている。この国際融資団の意思決定のカギを握っているのが世界銀行であり、世界銀行が融資にYesであれば事業は進み、Noであれば事業は止まる事になる。


ナムトゥン2ダム計画の争点

    推進側  疑問点
 貧困    利益は貧困削減に  実効性に疑問
 移転    住民は希望  開発プロセスに問題
 導水    4万人に補償検討  12万人にのぼる
 協議    住民参加型  ダムありき、言論統制
 情報    情報センター設置  重要文書非公開
 調査    Most studied  住民は理解不可能
  

 ナムトゥン2電力会社による25年間の発電で、20億ドルの利益が出ると試算されている。しかし、この資産は1997年のアジア通貨危機以前に分析されたものである。

得られた利益は貧困の削減に使われるとされているが、実効性があるかどうかは疑問である。


伐採が住民の「ダム賛成」を強めた

 ラオスでは、大量の原生林が伐採され、タイに運び込まれている。森を失った移転住民は「ダム賛成」の意見を強めた。木が無くなり、補償金ももらえないと言うのは、住民にとって最悪のケースとなる。

 ダム推進側は、住民参加型の協議を行うと言っているが、ダムありきの議論となってしまい、また、ラオスでは言論統制が行われている。



4 〜Rives for Life〜 第2回ダム影響住民国際会議の報告 発表者:氏家 雅仁(水源連)

 3つのダム開発問題の事例発表の後、スライドショーによる第2回ダム影響住民国際会議の報告を行った。
  (詳細については、水源連だより27号をご参照下さい。)



第2部 パネルディスカッション ―公共事業としてのダム、援助としてのダム―

 第2部では、4人の発表者をパネルとし、FoE-Jの松本郁子氏の司会でパネルディスカッションを行った。会場からは多くの質問が寄せられ、それぞれの質問についてパネラーが分担して回答・トークを進めた。

Q: ケラウ・ダムについて、水需要、貯水量など詳しいデータは分かっているか。また、必要性の判断はどの様な    プロセスで行われているか?

波多江: 多少のデータはあるが、詳しいデータについてはマレーシア政府から情報開示が行われていない事が問題となっている。詳しいデータが無いと、議論が出来ない。


Q: 日本が融資を決定するシステムは?

波多江: JBIC(日本国際協力銀行)とマレーシア公共事業庁の間で融資契約が結ばれると着工となる。この前に、政府間の約束も必要で、すでに2003年3月に交換公文が結ばれている。日本からの資金は、供与ではなく融資(ローン)であり、マレーシアは返還しなければならない。財源には郵便貯金や国民年金が使用される。


Q: 日本におけるダム問題・日本の資金による海外のダム問題の共通点の根幹は何か。どの様に解決してゆく     のか。当面の目標は?

嶋津: 日本におけるダム問題と海外のダム問題には、異質の部分があり、今後の協力を考えてゆくと違いの部分をどうするかが課題となる。日本でもそうなのだが、ダムを作るまでのプロセスの中に事業者と住民が議論する場が無い。公開の場での徹底した議論が必要。そういう場をどうやって作ってゆくかが課題である。
    日本では情報公開法が制定されて10年が経ち、ある程度情報公開が進んだ。この点については、マレーシアより10年分進んでいる事になる。情報公開法や、中村敦夫参議院議員等の協力による質問趣意書などによって、データが公開される様になってきたが、まだ十分とはいえない。情報公開の制度をアジアでも作る必要がある。
    人権や補償についても違いがある。日本では、土地など財産がある人は補償を受けられる。しかし、移転住民の大半は借地・借家の人で、問題もある。日本においても補償は十分ではないが、アジアはもっと大変なことになっている。

松本悟: ODAによるダム問題・水源連が取り組むダム問題の協力は、試行錯誤しながら進めて行く状態で、解決はついていない。対話を続けてゆく中から見えてくるのではないか。日本のダムも、ダムによって問題点や戦略が違っている。

波多江: ダムの抱える共通する問題として、必要性の問題や代替案の議論がある。八ツ場ダム問題における、東京等での水需要の低下は、マレーシアでも例として使える。ダム問題に取り組む日本の専門家から、理論や方法論についての助言を受けてゆきたいと思う。
日本における人権や情報公開の制度やスタンダード(基準)を、日本の融資で作られる海外のダムにおいても適用すべきで、日本のダム事例とスタンダードを同じにしろ、と迫ってゆく必要がある。


司会: 時間の関係もあるので、質問をまとめて受けて、まとめて答えてゆきたい。

Q: 八ツ場ダムの入札における落札率は非常に高く、談合の疑いが濃い。ラオスやマレーシアでのダム建設への日本企業のかかわりは?

Q: ダム建設に絡む利権構造を何とか解消しないと問題の解決にはならないのではないか?

Q: ケラウダム問題において、JBICや日本政府が情報を開示しない理由は?

Q: 豊かさのイメージ、国の豊かさは、ダムによってもたらされると言うのは妄想であったという共通認識がある。ラオスではこの認識はあるか?

Q: WCD(世界ダム委員会)の報告書が発表され、アメリカでは大きな影響を与えていると聞いた。日本ではあまりWCDが広まっていないが、共有してゆく価値があるのではないか?

Q: 日本のODAで数多くのダムが作られてきた。ケラウダムでは、ODA史上最大の820億円もの融資が検討されている。どうしてこんな巨額が必要なのか?

Q: ダム建設におけるプロセスの欠陥を治す必要がある。市民が政府をコントロールできていない。民主的なプロセスを実現する必要があるのではないか。


波多江: ケラウダムの建設事業を日本の企業がとるような気がするが、日本の企業名を含めて、いまだ企業名が公表されていない。これまで、日本工営が調査事業を行った事しかわかっていない。
   日本とマレーシアの政府間の対外関係があり、国益を損なう恐れがあるとの理由で、日本国内においても情報が非公開となっている。
   820億円を何にどれだけ使うのかについての情報も開示されていない。45kmもの導水トンネルには多額の費用がかかると思うが。

松本悟: スウェーデンでは、ダム事業が減り、ダム技術者が余ってしまい、ラオスに出かけてダムを作ろうとしている。日本だけが悪者ではなく、世界各国が悪さをしている。
   例えばタイのパクムンダムやラッシーサライダムなど、すでにダムを作られてしまい、被害を受け続けている人たちの運動は非常に粘り強い。
ラオスでは過去のダム問題が共有されていない。
   アリを食べる生活から、先進国のようなハイテク生活にいきなり移る事はできるのか。このような極端な生活の変化を援助がもたらしている。

嶋津: 政府をコントロールできていないから、日本では住民を無視してダムが作られる。ダム反対運動を通して問題を喚起し、政府のおかしさを突いてゆく、政府を変えてゆく事が必要。
   ケラウダムにおける過大な水需要予測の話を今日聞いた。この点については水源連にも多少の知識と技術があるので、協力してゆく事が可能だと思う。

氏家: WCDの報告書は、世界各国における数多くのダム開発の結果を調査分析し書かれている。特に重要なのがWCDによる勧告で、既存設備の効率的な使用、代替案の評価、徹底した情報公開、住民の参加や自発的な同意などが示されている。これらの勧告は、ダム推進・反対双方の委員が、膨大な調査を元に一致して出したものであり、そう簡単に覆せるものではない。
   しかし、WCDは日本ではまだ広まっていない。WCDの勧告はすぐに利用できる環境とはなっていない。日本各地でダム問題に取り組んでいる住民にとって、WCD勧告は即効薬とはなっておらず、優先順位が高い活動が山のようにある。
   河川整備計画策定における流域委員会への住民の参加について国土交通省と対話を行った時に、WCDを引き合いに出したが、本格的な活用はこれからとなる。

松本郁子: WCDについてのシンポジウムを日本で開催した際に、WCDの元委員とともに国土交通省と意見交換を行ったことがある。その席で国土交通省は、日本ではすでにWCDの勧告に沿った形でダム建設を進めている、と語っている。

松本悟: 貧困削減のためにダムを造り、補償やダムの利益で貧困を削減してゆくと言う。森とともにあった人々が、お金で日本的生活に成れるのか?タイでは、もともと貧しかった人たちが、ダム建設により多大な被害を受け、開発からはおいてきぼりになっている。ダム建設は、その国の中のエリート層にとってはおいしい事業になっている。企業とダム開発契約を結ぶと、担当の役人が2千ドルもらえると言う実例がある。2千ドルは日本では大きなお金ではないが、現地役人の給料の百ヶ月分に相当する。ダム開発による利権が豊かな層を作り出している現状がある。


司会: 最後に国内ダム問題に取り組む人と、ODAによる海外のダム問題に取り組む人がどのように協力できるか、今後の可能性について述べてもらい、終わりとしたい。

氏家: 今日のセミナーをきっかけとして、上手く動き出して欲しい。

松本悟: 今日のセミナーにはとてもたくさんの人が参加した。なぜ今日のセミナーに来たのか、参加いただいた皆さんに聞いてみたい。その中に今後の協力の方向性があるのではないか。

嶋津: 今日の発表を聞き、海外のダムについてある程度分かってきた。今後、協力できる側面が分かってきた。

波多江: こんなにたくさんの人にセミナーに参加して頂き、驚いている。今後とも、海外のダムについての情報を提供してゆきたい。



2004年4月5日19時から21時15分まで、水道会館6階中会議室にて開催。

報告者注:本報告は、当日のメモからセミナーにおける発言内容を文章化したものなので、発言者の発言要旨と異なる点があります。セミナー直後に水源連だよりの締め切りがあるため、発言者の確認は取っておらず、誤り等があれば、報告者に文責がありますので、ご了承下さい。

各ダム問題についての詳しい情報は、以下のホームページにてご覧いただけます。
      八ツ場ダム:  八ツ場ダムを考える会 https://yamba.parfe.jp/
      ケラウダム:  FoE-J   https://foejapan.org/aid/
      ナムトゥン2ダム: メコン・ウォッチ  https://www.mekongwatch.org/
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