国際協力銀行（JBIC）は、昨年より検討していた「コーラルベイ・ニッケル製錬拡張事業」への融資を、今年に入り断念しました。この事業は、日本企業が主体となりフィリピン・ パラワン州で進めている事業です。

この決定は、JBICが現地NGO 環境法律支援センター（ELAC）、およびFoE Japanに宛てた2008年1月11日付のレターで明らかにされました。事業者側がキャッシュ・フローの予測を再検討した結果、融資の依頼を取り下げ、これを受けてJBICも融資を断念せざるを得なくなったというものです。

同ニッケル製錬事業は、JBICの融資で建設された第１製錬所がすでに2005年4月から操業を開始しており、現在、生産量を倍増させるための拡張事業（第２製錬所の建設）が着々と進められています。

しかし現地では、第１製錬所建設前から、豊かな自然環境で知られるパラワン州の環境破壊、先住民族パラワンの人々の生活・文化破壊など、環境・社会影響を懸念する声が多くあげられてきました。第１製錬所操業後には、これまで見られなかった種類の皮膚病や咳、頭痛の慢性化が報告されており、ニッケル製錬事業との因果関係を疑う見方も依然として残っています。

現地住民・NGOが環境社会問題を指摘
今回のニッケル製錬拡張事業についても、先住民族の合意未取得、あるいは、環境保護指定地域での新たな鉱山開発の動きと同拡張事業の関連性など、環境・社会問題を指摘するレターが、度々、環境NGOからJBICへ提出され、JBICは拡張事業への融資検討を慎重に行うよう求められていました。

JBICは、事業者側から融資依頼を受けた後の2007年3月末、「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン（以下、ガイドライン）」に沿って、同事業を最も慎重な「環境レビュー」が必要とされる「カテゴリA」に分類。事業への融資を検討中であることをホームページ上で明らかにしました。

現地住民・NGOからの懸念に配慮しつつ、2007年5月には現地調査を行ない、同9月、FoE Japanとの会合と現地NGOに宛てたレター（2007年9月18日付）で、現地住民・NGOの懸念する環境・社会上の問題はクリアされているとの認識を示しました。

しかし同10月、同事業に必要な原材料確保のため、環境保護指定地域での新たな鉱山開発が行なわれる可能性が高いことを指摘するレターが、NGO側から再度提出されたのを受け、JBICは再び環境・社会面での確認・対応を迫られていました。

このような状況の中、企業側からの融資申請の取り下げがあり、JBICも環境レビュー中に融資を断念する結果となりました。

コーラルベイ・ニッケル社も環境配慮を
一方、現地では、2009年の第２製錬所操業開始に向け、着々と拡張工事が進められています。JBICが融資を断念し同ガイドラインが適用されないとしても、事業者であるコーラルベイ・ニッケル社（CBNC）は、現地住民、NGOが懸念する環境・社会問題に十分配慮し、対応するべきであることは言うまでもありません。とりわけ、第１製錬所操業後に指摘された環境・社会面での問題について、拡張事業を進める前に徹底した調査が行なわれるべきです。

JBICが現地住民やNGOの声に配慮しつつ融資判断を慎重に行なったことは、同事業に関わる融資機関として、日本市民だけでなく現地影響住民に対する説明責任があるという観点から、非常に評価、歓迎される対応でした。

しかし、JBICはすでに第１製錬所への融資を行なっており、一連の製錬事業への関与を否定することはできません。また、同製錬事業に伴う環境・社会問題について完全に責任を免れるわけではありません。JBICは、今後も第１製錬所操業に関するモニタリングを継続するなかで、現地からの懸念、また、現地ですでに起こっている環境社会問題につき、これまでと同様に配慮し、真摯に対応することが期待されます。

また、ニューカレドニアにおいても、コーラルベイ・ニッケル社に出資している住友金属鉱山と三井物産が関与するニッケル開発事業（ゴロ・ニッケル開発）が進められており、先住民族の生活や自然環境への影響が懸念されています。この事業もまた、JBICに融資が申請される可能性があり、その場合、JBICにはコーラルベイ・ニッケル同様慎重な融資審査が求められます。

●コーラルベイ・ニッケル製錬事業について　詳細は こちら