【第1回】「海外開発プロジェクト融資の<環境、社会、ガバナンス>強化に向けて」開催報告
2008年1月16日(水)、FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、原子力資料情報室、市民外交センター、メコン・ウォッチ、地球・人間環境フォーラムが主催者となり、連続セミナー「持続可能な社会のためのODAと公的融資」の第1回目を開催しました。
当日は、報道関係者、関係省庁、国際金融機関の方を含む57名の参加がありました。
今回のセミナーでは、「海外開発プロジェクト融資の<環境、社会、ガバナンス>強化に向けて」と題して、現在進んでいる国際協力銀行(JBIC)および国際協力機構(JICA)の環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)の改訂プロセスについて、NGOから、現行ガイドラインの運用上の課題やJBICが行ったガイドラインの実施状況レビューの問題点などが報告されました。また、学識経験者やCSR有識者の方からもそれぞれコメントをいただきました。
以下はその報告です。
地球・人間環境フォーラムの満田氏からは、JBICの環境社会配慮確認手続きを定めた現行のガイドラインの策定にいたる経緯やガイドラインの内容が報告されました。
80年代後半、世銀などの国際金融機関の融資事業に対する批判の高まりを背景に始まった環境社会配慮政策は、90年代には二国間融資機関にも広まり、2000年代からは民間の金融機関にまで拡大しました。
一方、日本では、日本輸出入銀行と海外経済協力基金の統合をきっかけに、学識経験者や国会議員、関係省庁、NGOなども議論に加わり、他の国際金融機関が定める水準にもひけをとらない、高いレベルの環境ガイドラインが策定されました(2002年4月に策定、2003年10月から全面施行)。
例えば、現行のガイドラインには、地域住民等のステークホルダーとの協議プロセスがプロジェクトの計画に反映されることを要件とした社会的合意や、非自発的住民移転の回避、生計手段の回復、先住民族に対する配慮などが規定されています。
こうしたガイドラインに則った施策の実現のためには、破壊的な事業に支援・融資しないという原則の下、事業の質向上のために、融資・支援機関自らの、さらには市民社会からの働きかけが不可欠だという指摘がなされました。
FoE Japanの神崎は、ガイドライン改訂に先立って、これまでにJBICが融資し、日本貿易保険(NEXI)が付保した、フィリピンの2つの案件(@ミンダナオ石炭火力発電プロジェクトAコーラルベイニッケル精錬所プロジェクト)を取り上げ、ガイドライン運用上の問題を報告しました。
そして、これらのプロジェクトに共通する環境社会配慮面での課題として、ステークホルダーとの意味ある協議の欠如、生活の再建計画へ影響住民の意見が反映されないこと、不十分な情報公開、環境影響評価の質の問題、JBICおよびNEXIの対応の不明瞭さなどが挙げられました。
メコン・ウォッチの福田氏は、カンボジア国道1号線改修事業における住民移転問題を取り上げ、特に住民移転に関わるJICAのガイドラインの問題点を報告しました。
JICAが開発調査と基本設計調査・予備調査を実施し、外務省の無償資金協力が行われた同事業は、1800世帯以上の大規模な住民移転が計画されています。同事業はJICAガイドラインのパイロットケースといわれていますが、移転住民が失う財産に対する補償が十分になされていない、移転地における問題(インフラ未整備、生計手段の喪失、土地権利書の未付与)や苦情処理手続きの問題などが起きています。
JICAのガイドライン運用上の問題としては、適切な時期に十分な補償と支援が提供されていないこと、生計手段を回復させる支援策がないこと、移転計画等の非公開、苦情申し立て手続きが機能していないことなどが指摘されました。また、現在は適用されていない無償資金協力の審査・実施にも環境社会ガイドラインを適用し、住民移転に関する要件を充実すべきだとの提言がなされました。
JACSESの田辺氏からは、ガイドラインの改訂に向けた現行のガイドラインの実施状況のレビューについて、特に11月29日の第1回コンサルテーションでJBICから提示された「『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』に係る実施状況確認調査報告書」の問題点が指摘されました。
問題点としては、現地調査が実施されていないなど調査方法が十分でないことや調査範囲が限定的であること、JBICが「ほぼすべての案件で適切に実施」と結論付けたカテゴリ分類(*)・環境レビュー・モニタリングの評価の妥当性およびガイドラインの効果が不明確であること、環境影響評価(EIA)の非公開、住民移転計画の不備などガイドライン不遵守の可能性が高い場合への対応が不明確であることなどが報告されました。
FoE Japanの清水からは、現在のJBICのガイドライン策定にも関わり、その後はガイドラインの運用をモニタリングしてきたNGOがその経験をガイドラインの改訂に生かすために、2007年11月26日、共同でJBICに提出した提言書について報告されました(全文は、こちら)。
JBICが行う環境社会配慮について定めた第一部の提言としては、環境レビュー中(融資決定以前)、融資決定後、モニタリング段階の情報提供の質、範囲、情報へのアクセスの問題を改善することや、現在JICAに常設されている第三者機関、環境社会配慮審査会を新JBICにも設置することなどが提案されました。
また、プロジェクト実施主体者が行う環境社会配慮について述べた第二部に関しては、地域住民等との協議が適切に実施されたか確認すること、非自発的住民移転における補償や苦情処理メカニズムの明確な規定および情報公開、先住民族に影響を及ぼす全てのプロジェクトの承認に先立ち、"自由で事前の十分な情報を得た上での合意(Free,
Prior and Informed Consent)"を得ること、先住民族の権利の保障に関する国際宣言・条約等の規定を盛り込むこと、影響を受ける全てのステークホルダーとの社会的合意の形成とその協議記録の情報公開、モニタリング報告書の公開などが提案されました。
また、新機関が新たに取り組むべき課題としては、原子力関連プロジェクトについて、一般的に影響を及ぼしやすいセクター留まらず十分な環境チェックリストを作成することや、原子力の専門家やNGOを含む第三者機関を設置し、その助言を審査結果に反映させること、融資決定に先立って採掘産業におけるガバナンスリスクを考慮するなど歳入の透明性について新しいガイドラインで規定することなどが提案されました。
原子力資料情報室の西尾氏からは、現在、温暖化対策として原子力発電が推進されている背景、また、JBICとしても原子力発電関連プロジェクトへの関与の事例があることなどの理由から、新ガイドラインに原子力発電関連プロジェクトに関する規定を盛り込むことの重要性が指摘されました。
早稲田大学の村山教授からは、現在JICA環境社会配慮審査会委員長の立場から、現在の審査会の仕組み、実施状況及びその効果や今後の課題についてコメントをいただきました。
また、潟激Xポンスアビリティの足立直樹代表取締役からは、社会が持続可能であるために求められる企業の行動原則としてのCSR、そしてその概念が海外での開発プロジェクトにどう関連付けられるかついて、現状や新しい取り組みなどを含め、コメントをいただきました。
セミナーを通して再三指摘されていたことは、現行の環境ガイドラインが適切に運用されていない可能性が高く、その際の苦情処理・申し立てシステムの不備が大きな問題として顕在化しつつあるという認識です。
また、そうした報告に対し、会場の方からも「素晴らしいガイドラインができたのはいいが、数十年前から依然として結果は変わっていないような印象を受ける。」といった声も聞かれました。
今後、環境ガイドラインの適切な運用と、それを促すための消費・企業行動のあり方、更に、そうした行動に向かうインセンティブを生み出す方法・知恵などについて、連続セミナーを通して皆さんと共に協議し、議論・共有を深めていきたいと考えています。
(*)案件のセクター、規模、地域の特性などから、環境社会影響の大きさに応じて分類をおこなっている。
カテゴリAが最も環境社会に重大な影響を及ぼす案件。 |