「カリフォルニアの電力危機」事実と虚構
(メディアの背後に石炭・石油・原子力マフィア?)

米・ロッキーマウンテン研究所・研究部門最高責任者・エイモリーB.ロビンズ氏が来日、2月9日の「自然エネルギー促進議員連盟」の定例勉強会を皮切りに、エネルギー政策の発想転換と、カリフォルニアの電力危機の真相につき数回のシンポジウムで講演された。筆者は日本の視点を若干加えながら、この電力危機が、日本のこれからの「電力自由化」や「自然エネルギー推進」にとって、マイナス要因にならないよう読者の理解を得るべく説明・解説を以下に試みたい。

停電の原因は?
主たる原因
より深い原因を探る
日本が学ぶべき事

停電の原因は?

    直接の原因は技術的に制御不能に陥ったのです。給配電網を制御する系統運用システムが、発電側と需要側を結ぶどこかにボトルネックが生じたのを、カバー出来なかったということです。しかしこの背景には1980年代から始まった電力自由化・規制緩和・省エネ施策・分散型小電力発電の普及などが複雑に絡んで、これに対する当局の予測・見通しの甘さ、給配電網の改善投資の遅滞などに起因しているのではと言うのが、エイモリーの見解。従ってテレビなどでの説明は非常に難しいので、まず間違っている報道は正して置きたいと。

1 カリフォルニアでは、1990年代に発電所が建てられなかった?

   実際には4.71GW(原発5基分)の発電所が建てられた。これはカリフォルニアの、ピーク電力需要に対応する予備発電設備量の10倍に相当する。しかしこれらは分散型(新規の独立系発電事業者)− 平均1.8万kw程度 − であるが、稼動し続けている。

2 電力需要が高騰?

   実際には’89−’99年の平均小売販売の伸びは、年1.3%(GDPの伸びより小さい)

3 インターネットによる大きな電力需要?

   強力な石炭ロビーの意図的誤報キャンペーンは、今米国の電力の8−13%を使っていて、すぐ50%を使うようになると主張。実際には2%かそれ以下であり、殆ど伸びてない。

4 絶望的燃料不足(ホワイトハウスは2001/1/21にこうコメントした)

   カリフォルニアは燃料不足ではない。カリフォルニアの電力の1%(米国全体でも2−3%)しか石油に依存してない。電力と石油は殆ど繋がりがない。

主たる原因:電力市場再編をやり損なったこと

  − 入札制度が投機的商売と価格不当操作を容認するものであった。

− 1999年から2000年にかけて、卸販売の事情が一変した。

   kWh販売量:1.7%の伸び、ピーク需要:−1.9%にも拘らず

   kWh 価格:13倍、 予備電力価格は130倍に暴走。

− カリフォルニア流の電力再編を行わなかった、カリフォルニア周辺の16の州や、サクラメントやLAなどの州内の一部自治体では、2000年に入っても、このような 投機的価格変動は見られなかった。    

− 電力会社が利潤追求のためスポット買いを乱用、リスク分散を怠り、自滅した格好。

− 電力会社の資金手当ての拙さが、更に供給余裕を絞り込んでしまった。

− 反競争的慣行が、幾つかの電力供給源を、締め出してしまっていた。

1999年カリフォルニアでは、電力会社以外の独立事業家の給電能力は、30GWに達した。この内の20%が自然エネルギーによるもので、この電力の持つ安定的な価格と言う長所が、今回の危機では生かされず、需要家に届いていなかった。

より深い原因を探る:

1 1980年代後半から効果を上げてきた、エネルギー効率化と負荷平準化(DSM)が1990年代半ばには勢いを無くしていた。

− 世界レベルのプログラムにより、1990年始めまでに10GW(CAのプールピーク需要の1/5に相当)の節減を達成した。

― 構造改革がDSMの路線を脱線させた:電力会社は1995年の予算を40%以上カット。1.1GWのピーク削減が達成未達に終わった。

― 州議会は2000年9月に介入を決めたが、効果は現れなかった。

2 電力会社の効率向上努力に対するインセンティブが消失したこと。

− 10年間に亘る、消費者に電力請求額を少なくすることにより電力会社自身も儲かると言う、すばらしいシステムが1996年に廃止され、その後も再検討されてない。3 1990年始め、連邦電力規制委員会(FERC)は環境保護の活動家達が緊急に要求した、カリフォルニア州で競売に出された、クリーンな発電設備140万kw分をキャンセルした。州の電力会社がその電力は必要がないと言った故に。

日本が学ぶべき事

   日本は「電力自由化」と「自然エネルギー推進」で世界に10−20年遅れを取っている。これを今同時に進めようとしているが故に、大きな混乱と業界・政府・市民の対立がより大きなものになりつつある。「電気・電力」は我々の生活の「利便性」を向上させてくれるが、同時にその消費が増大すると、各種環境影響で健康・生命にマイナス要因をもたらすものであることを、よく認識して市民として国や地方のエネルギー政策に積極的に関与・参画すべきと考える。

1 電力自由化の第1目的は競争原理を取り入れて、需要側・発電側ともにエネルギー効率を向上させ、合理化された(少ない)原料・設備で、しかも安価に消費者に電力を供給しようというもの。一見、技術的に解決すべきことのように思われるが、ここに各種の既存の法律・規制・税制や業界の利権が絡まり会い、極めて政治的な様相を呈している。

   例えば、米国では石炭火力が電力の半分以上を供給している。温暖化ガス削減交渉に米国が積極的にならない原因の一つでもある。石炭が豊富で安価であるからだ。自由化で安い電力が求められると、日本でも石炭火力が増加する恐れがある。(総需要の16%)現に設備容量としては増加しつつある。石油・天然ガスに比べて税金が格安なのが主因。

2 昨年から「自然エネルギー推進法」を成立させようと、超党派の国会議員100余名からなる「自然エネルギー促進議員連盟」が我々NGOと組んで活動してきたが、未だこの法案は日の目を見てない。何故か? 電力業界・産業界の、様々な生き残りのための、或いは既得権益の擁護のための抵抗が以外に大きいと言わざるを得ない。ひとつには、今電力は供給過剰時代になっている。世界1高い電気料金に守られて、電力会社も電力設備間連業者も今までかなり良い商売をしてきた。ここに来て、電力自由化となると、先ず困るのが電力会社。新規参入電力事業者に比べ、電力会社の‘立派な’発電所からの電力は競争にならない程高いのだ。電力会社は「自然エネルギー発電」についても「独立発電事業」についても、規制緩和どころか、様々な‘規制’をつけて、導入・普及を遅らせようと、政府・国会に強力なロビー活動を展開しているのである。

カリフォルニアの電力危機を絶好の材料と考え、日本の電力会社・産業界は既得権益を守るために、自由化や自然エネルギーに足枷を嵌めるべく、各種の報道・宣伝がこれから多く出てくると思うが、市民はこれを鵜呑みにしないよう、監視・批判をすべきと考える。