予備スタディー:他機関の環境ガイドライン分析
世界銀行グループ・国際金融公社(IFC)
1 特徴
IFCは世界銀行グループの中で、MIGA(多国間投資保証機関)と並んで民間セクターの活動を支援する機関である。その活動方針は世界銀行グループの貧困削減及び持続可能な開発という目標に沿うものであり、環境・社会政策も世界銀行と基本的に同じものを遵守する。そのうえで、民間支援という事業形態に適する独自の手続き・ガイドラインを策定している。
基本姿勢:IFCは「目標」の中で、リーズナブルな投資リターンを伴う民間セクターの発展とともに、「環境・社会問題に対する企業責任を育成し、企業秘密を守りつつプロジェクトの環境・社会影響のアセスメント及び管理に関する透明性を保つこと」を挙げている。「すべてのIFC事業活動は環境と社会に責任ある仕方で行われる」必要があるため、プロジェクトはIFC等の環境・社会・情報公開政策を順守しなければならない。最近は、セーフガードアプローチ(”Do
No Harm”)から、より積極的な環境アプローチ(”Do
More Good”)への転換をうちだしている。
手続き:IFCは、プロジェクトが最終的に理事会で承認されるまでに、初期レビューからはじまっていくつかの細かい意思決定のステップを設けている。環境専門家はごく初期の段階からプロジェクトに関わり、段階ごとに所定の書類による環境ステートメントや正式な環境クリアランスを含む環境社会レビューを行う。環境専門家によるレビューの手続きとその権限は文書で細かく定められており、環境専門家の承認がないと投資部はプロジェクト審査を進行できないようになっている。
政策遵守メカニズム:98年には環境・社会政策の遵守を確保し、個別の苦情申し立てに対応して問題解決をはかるためにCompliance
Adviser/Ombudsman(CAO)を導入した。
1999年度の実績は、新規承認プロジェクトが255件、53億ドル。
2 現在定められている環境政策
IFCは活動の環境・社会側面に関し、以下の3つのレベルで文書化している(図1を参照)。
1.環境・社会セーフガード政策及び情報公開政策
2.環境・社会レビュー手続き
3.ガイドライン
ガイドラインは手続きに沿って事業を行う上で参照とされるべき具体的な基準や指針を示す。
- 「汚染防止・削減ガイドブック The Pollution
Prevention and Abatement Handbook」
世界銀行のガイドブックを採用。世銀グループの経験に基づく汚染防止マネジメントに関する重要な政策のサマリー、政策目標実行のためのグッドプラクティス、プロジェクトをデザイン・実行する上で考慮すべき詳細な要件、基準を示す。各国の法制度や状況に応じて、代替的な基準や方法を提案する場合もある。個別プロジェクトの環境アセスメントレポートは、完全かつ詳細にここで示される基準やアプローチを満たすことを示さなければならない。
- 世界銀行の「健康と安全ガイドライン Occupational
Health and Safety Guidelines」
- その他資料
IFCは上記のほかにも、下記を含む多くの資料をレビューの上で参照する。
・「産業災害アセスのテクニック・マニュアル」(世銀テクニカルペーパー)
・「有害物質の安全廃棄」(世銀テクニカルペーパー)
・「環境アセスメントソースブック」(世銀テクニカルペーパー)
・「開発/発展としての移住」(世銀テクニカルペーパー)
・「効果的パブリックコンサルテーションと情報公開によるよりよいビジネス:グッドプラクティスマニュアル」
図1 |
|
|
|
|
|
●基本セーフガード政策
・環境アセスメント(OP4.01) ・情報公開政策
|
|
|
|
|
|
|
|
環境政策
・自然生息地(OP4.04)
・森林(OP4.36)
・農業害虫管理(OP4.09)
・国際河川(OP7.50)
・ダム安全(OP4.37) |
|
社会政策
・非自発的移住(OP4.12)
・先住民(OP4.10)
・文化遺産(OP4.11)
・強制労働及び
有害な児童労働 |
|
|
|
↓ |
|
|
|
●環境・社会レビュー手続き
|
|
|
|
↑ |
|
|
|
●ガイドライン
・汚染防止・削減ガイドブック(世界銀行)
・環境・健康・安全ガイドライン(世界銀行)
・コンサルテーション及び情報公開に関する
グッドプラクティス・マニュアル
|
|
|
|
|
|
|
- その他規定
・適当なIFCガイドラインがないセクターでは、国際的に認められた基準を採用する。
・プロジェクトスポンサーは受け入れ国の法令・規制等を満たさなければならない。
・国際的な環境条約/合意による各国の義務に反するプロジェクトには融資しない。
3 環境アセスメント
1)アセスメントの目的と性格
環境アセスメント(EA)の目的は、意思決定を向上させ、検討されているプロジェクトが社会・環境的に安定し持続的であることを保証することである。環境・社会的な影響はプロジェクトサイクルの初期段階で認識され、プロジェクトの選択、立地、計画、デザインにおいて考慮されなければならない。EAはプロジェクトを社会・環境の面で改善する方法を明らかにし、また負の影響を適切な方法で防止−最小化−軽減−補償しなくてはならない(防止が最も好ましい)。こうしたステップをとることにより、あとから高コストの矯正措置を取ることを避けられる。
プロジェクトスポンサーがEAプロセスを早期に開始し、その他のプロジェクト準備と密接に統合すれば、環境・社会配慮はプロジェクトの選択・立地・デザインの決定に十分反映されることになり、IFCによるレビュー手続きがプロジェクトの進行を遅らせることもない。
EAのメリット
初期段階で環境社会問題に注意を払いステイクホルダーと有意味なコンサルテーションを持つことは、プロジェクトスポンサーとIFCスタッフにとって次のようなメリットがある。
・早いうちにコストをかけず問題を解決することができる。
・適切なステップを事前に行ったりプロジェクトデザインに組み込むことができ、あるいは代替案が検討できるため、プロジェクト支援にコンディショナリティーを課す必要が少なくなる。
・予期しなかった問題のために余計なコストがかかったり遅れたりする事態を防ぐことができる。
またEAにより、プロジェクトスポンサーと関連国政府機関が、環境社会問題や現地住民の懸念等に対応したりするためのコーディネーションメカニズムを作ることも可能になる。さらにプロジェクトスポンサーが環境社会マネジメント能力を高める上でもEAは大きな役割を果たすのである。
2)対象
EAで考慮されるべき主な要素として、IFCは以下を挙げている(OP4.01/3)。
自然環境(大気、水資源、生態系、絶滅危惧種)、人体の健康や安全の保持、社会影響(非自発的移住、地元民および文化遺産の保護)、さらに国境を越えた影響や地球環境への影響も検討する。環境・社会影響は統合的に考慮されなければならない。また受入国の状況、スポンサーの能力、受入国の法律や規制、加盟している国際的環境条約等も考慮の対象となる。アセスメントはプロジェクトのなるべく早い段階で開始されるべきである。
3)環境アセスメントのツール
IFCは必要な環境アセスメントを行うツールとして以下を挙げている。このうちの一つ以上が必要に応じて適用される。(OP4.01)
・環境アセスメント準備書(EIA)
・環境監査(Environmental Audit):懸念される環境影響の性質及び範囲を特定し、適当な緩和措置、コスト及び実行スケジュールを記述する。
・災害・リスクアセスメント
・環境アクションプラン(EAP)
3-1 スクリーニング
プロジェクトの初期段階において、投資局は審査を進めようとするプロジェクトの情報をプロジェクトデータシートにまとめ、環境部はこれをもとにスクリーニングを行う。早期スクリーニングにより必要な環境社会情報を決定することで、スポンサーは情報を早くコスト効果的に提出することができ、また見出された問題もプロジェクトの進行を遅らせずアプレイザル段階で解決することができる。
各プロジェクトにどのようなタイプの環境アセスメントが必要となるかを検討するため、IFCはプロジェクトのタイプ、立地条件、sensitivity、規模*および潜在的影響の性質や規模に照らして、プロジェクトを以下の4つのカテゴリーに区分する。
*「立地条件」とは、マングローブ林や湿地、熱帯雨林など環境的にsensitive
なarea内に位置したり、あるいは近接していたりすることを指す。
*「規模」は環境・社会専門家により、プロジェクトのコンテクストにおいて判断されるべきである。規模が大きいと判断されればそのプロジェクトはカテゴリーAとして扱われる可能性が高い。
*「sensitive」な影響とは、以下のようなものである。
−(たとえば自然生息地を大きく損なうなど)不可逆的な影響を及ぼすもの
−傷つきやすいグループや少数民族への影響を伴うもの
−非自発的な移住をともなうもの
−重要な文化財に影響を与えるもの 等。
カテゴリーA
人間や環境、地域に環境面でのsensitiveで多様、前例のない重大な影響を与えると考えられるもの。物理的な立地範囲よりも影響の範囲が広がる可能性がある。
例:大規模プロジェクト(ダム及び貯水池、森林プロジェクト、農産業、産業プラント、石油・ガス開発、パイプライン、工業団地の新規造成、鉄鋼/非鉄操業、港湾開発、火力発電、水力発電)、大規模移住や少数民族への影響を伴うもの、環境に影響を与える量の農業害虫管理剤の製造・使用・廃棄、危険・有害物質の製造・移送・使用、家庭ごみや危険物質の廃棄処理、深刻な職業労働リスクや健康リスクを伴うもの、重大な社会経済影響が懸念されるもの。
カテゴリーB:
カテゴリーAほど影響が深刻ではないが、人間や重要な環境(湿地、森林、草原その他の自然生息地)に影響を与えると考えられるもの。影響は地域特定的であり、不可逆的影響はないかごくわずかで、カテゴリーAよりは緩和措置が採用しやすいと考えられる。
例:小規模農産業、電気通信、養殖漁業、小規模再生可能エネルギー、観光開発、農業用水、小規模のリハビリ・メンテナンス・近代化プロジェクト、一般製造業、織物工場、テレコミュニケーション等。
カテゴリーC:
否定的な環境影響はほとんど、あるいは全くないと考えられるもの。アドバイス・技術支援、生保、損保等。
カテゴリーFI(financial intermediary)
→ 9「特殊形態ローン」
金融仲介を通す(IFCが直接的に金融支援しない)サブプロジェクトのうち、環境に悪影響を及ぼす可能性のあるもの。あるいはそのようなサブプロジェクトが行なわれる可能性がある場合。(銀行へのコーポレート・ローン、クレジット・ライン、プライベート・エクイティ・ファンド等)
支援除外リスト
IFCは以下に分類されるプロジェクトには支援を行わない。
・有害または搾取的児童労働を含む活動
・実施国の法令、規制または国際条約等に違反するもの
・武器弾薬、アルコール飲料(除ワイン・ビール)、タバコ、放射性物質の製造及び取り引き
・ギャンブル関連産業
・放射性物質、アスベスト、PCBほか、人体に有害な薬物の製造及び取り引き
・国際条約で規制されている野生生物取り引き
・原生熱帯林の伐採及び木材取り引き
・オゾン層破壊物質の製造及び取り引き
・流し網漁業
・先住民が所有、または所有権を主張して司法に訴えている土地を、書面による完全な合意なしに侵す活動
|
3-2必要とされる環境調査
各カテゴリーで必要とされるEAは以下の通り。
カテゴリーA
・スポンサーは、完全な環境レポート(通常EIA(環境アセスメント準備書))を作成し、またEAP(環境アクションプラン)を作成、アップデートしなくてはならない。EAではプロジェクトの予測される正・負の効果とともに、実行しないという選択肢も含む実行可能な代替案を検討し、影響を防止、最小化、緩和または補償する方法を勧告する。
完全なEIA環境アセスメント報告書(カテゴリーA)に記載されるべき事項
- 報告書概要
- アセスメントの実施に関連した政策及び法・行政のフレイムワーク
- プロジェクトの内容についての具体的な説明。地理・社会・環境・時間的コンテクスト、対象地域外で必要な投資、また移住や先住民への影響など含む。
- ベースラインデータ:プロジェクトの立地・デザイン・運用・影響緩和等の決定に関する学術的分析データ。
- 環境インパクト:可能な限り量的データで正・負の影響を予測し、緩和策と緩和されない影響があればそれも記述する。
- 代替案の検討:当該プロジェクトの立地条件、技術、デザイン、業務体制と、実現可能な代替案(プロジェクトを行わないという選択肢も含む)とをシステマティックに比較したもの。
- 環境行動計画:緩和措置、運営、モニタリング、組織的手続きおよびそれらを実行するために必要な活動を記述したもの
- 付表――報告書作成者のリスト、参考文献、データ、関連報告書リストのほか、諸機関間の共同作業および協議記録。現地ステイクホルダーとの協議記録含む。
|
・スポンサーは詳細なパブリックコンサルテーション・情報公開計画書(PCDP)を作成しなくてはならない。
・環境アセスメントは、プロジェクトと関係のない環境専門家に委託して行われなくてはならず、また特に多大な影響が予測されるものについては、通常、独立で国際的に認められた環境専門家委員会のアドバイスを得なくてはならない。
カテゴリーB
カテゴリーBに区分されたプロジェクトのアセスメントの範囲はプロジェクトによって異なるが、総体的にはカテゴリーAより狭い範囲である。カテゴリーAと同様、影響の防止・緩和・補償案を提出しなければならない。
カテゴリーC
スクリーニング後、さらにアセスメントが必要とされることはない。
このほかにIFCスタッフおよびプロジェクトスポンサーへのガイダンス資料として、環境アクションプランや環境監査、災害アセスメント等文書のアウトライン、また大型ダムや貯水池を発生させるもの、害虫駆除管理を含むプロジェクトのEA作成手続きの要件、移住アクションプランの内容要件について、特に別紙で定めている。
3−3 IFCによるEAレビュー
IFC環境部は、投資部から提出されたプロジェクトデータシート(PDS)を受けて、以下の項目を含む環境社会情報メモランダム(ESIM)を作成する。
- カテゴリー及びその理由
- プロジェクトに見出されるあるいは考えられる主な環境社会懸念
- PDSおよびMOR用の環境記述ドラフト
- 環境部が完全なレビュープロセスを行うためにスポンサーから必要とする環境社会情報の詳細
- そのプロジェクトのレビューに適用されるIFC政策その他ガイドライン等
- カテゴリーAプロジェクト及び小規模移住や害虫駆除管理を含むカテゴリーBプロジェクトについては、コンサルテーション及び情報公開プランの一般的アウトラインおよび当該プロジェクトの詳細なコンサルテーション及び情報公開計画書(PCDP)を作成するために必要とされる要件。
ESIMを作成するのに十分な情報を得るため、IFCは通常、スポンサーに環境社会質問票を記入してもらい、スポンサーの環境マネジメント能力について基礎的評価を行う。プロジェクトスポンサーに必要な環境関連活動を実行する能力がないと判断される場合には、IFCはスタッフのトレーニングまたは外部専門家の雇用を要求する(OP4.01/11)。十分な情報が提供されなかったりアプレイザルの段階で重要な問題が見出される場合には、環境部は情報提出を要求するとともにカテゴリーの見直しも検討する。
ESIMが発行されると投資部はスポンサーに書面で必要な情報や手続きを知らせ、また情報公開・コンサルテーションのグッドプラクティスマニュアル等の資料を送付する。
すでにEAが行なわれている場合にはその内容をIFC政策と照らしてレビューし、必要であれば住民協議や情報公開を含む追加的措置を要求する(OP4.01/5)。
カテゴリーA
EAレポートその他情報の審査に加え、環境部スタッフもしくはIFC委託のコンサルタントによる現地調査を行う。プロジェクトスポンサー及び影響を受けるグループと会い、社会・環境に関する懸念や情報公開・コンサルテーションの必要について確認する。
カテゴリーB
社会環境情報のレビュー。必要に応じて現地調査も行う。
カテゴリーC
特にレビューは必要とされない。
4 住民参加
すべてのプロジェクトスポンサーは、環境アセスメント政策・手続きのほか、「Good
Practice Manual on Public Consultation and Disclosure」を参照することが求められる。このマニュアルでは、コンサルテーションを「プロジェクトスポンサーと公衆との二方向コミュニケーションのツール」と捉え、その目的とするところは「プロジェクトに利害を持つ個人やグループを積極的に巻き込むことにより意思決定の向上と理解の確立」を図ることとしている。マニュアルによれば、これらのステイクホルダーの参加は「プロジェクトの長期的な実行可能性を高め、直接影響を受ける人々やその他のステイクホルダーがプロジェクトから受ける利益を促進する」。
カテゴリーAおよび特別に懸念の持たれるカテゴリーBプロジェクトの場合、プロジェクトスポンサーは環境アセスメントを行うにあたって、利害関連のある住民団体や地元のNGO等と環境面に関し協議を行い、彼らの見解を考慮する必要がある。こうした住民参加のコンサルテーションは、アセスメントプロセスのできるだけ早い段階で行う必要がある。また実施期間中も必要に応じてこれらのグループとのコンサルテーションを行なわなくてはならない。
影響を受ける人々やNGOとの意味ある協議を行なうためには、プロジェクトスポンサーは協議に先立って十分な余裕を持ち、協議相手のグループがアクセスでき、理解できるような言語と方法で資料を公開しなければならない。
最終的EAは協議プロセスの詳細、ステイクホルダーから出された懸念、これに対するスポンサーの回答及びそれらをプロジェクトのデザインや実行に反映する方法について記述しなければならない。
特にカテゴリーAのプロジェクトについては、プロジェクトスポンサーはこのようなコンサルテーションを、@スクリーニング直後およびアセスメント事項が決定される前、Aアセスメントのドラフトが準備された後の、少なくとも2回行う必要がある。また、アセスメント期間及び建設・運営期間を通じたパブリックコンサルテーション・情報公開計画書(PCDP)を作成しなくてはならない。計画書は@現地の情報公開・協議規定A主要なステイクホルダーB実施戦略とタイムテーブルC計画実行のための資源及び責任D公開・協議活動の詳細な記述を含む。予備PCDPはできるだけ早く、アプレイザルの前に環境部のレビュー・承認を受けなければならない。PCDPはアプレイザルの間も定期的にアップデートれる必要があり、常に環境部が承認した後に投資局の承認を受ける。
IFCがプロジェクトに関与する前にカテゴリーAプロジェクトのアセスメントが完了している場合には、IFCはアセスメントの準備中および終了後に行なわれたコンサルテーションおよび情報公開の内容をレビューし、必要があれば補足的コンサルテーションおよび情報公開プログラムを実施するようスポンサーと協議する。合意の上で行われる追加的措置のレポートが完了するまで、EAは完了したとみなされない。
カテゴリーBプロジェクトのうち小規模移住や害虫駆除剤管理など特別の配慮を要するものに関しては、影響を受ける可能性のある住民との早期協議を求められる場合がある。
5 情報公開
1)情報公開の原則
情報公開に関しては、環境政策と別に情報公開政策がIFCの基幹政策として定められている。ここでは、「開発プロセスにおけるアカウンタビリティーと透明性の重要性を認識・支持」する立場から、IFCは活動をオープンにし、外部からのインプットを歓迎し、できる限り多くの人々に活動を説明する機会を模索するとしている。また自らを「民間セクターの経済・環境・社会的に持続的な開発を推進する機関」として位置づけ、外部との討議や理解を得ることの重要性を強調する。そして様々なセクターやグループと情報を共有することがIFCの活動を向上させることは過去の経験からも明らかであると述べている。したがってIFCは、情報公開が企業活動及び競争利益を物理的に妨げないならば、公開を原則的に進めるという立場を取っている。
このほか現地の影響を受ける人々やNGOとの協議に伴う情報公開政策については、「協議及び情報公開に関するグッド・プラクティス・マニュアル」がある。
2)支援決定前の情報公開
IFCの支援検討対象であるプロジェクトが、最終的にIFC理事会の承認(通常手続き)またはクロージング(合理化手続き)またはマネジメントレベルの許可(権限委託)がされる前に外部からのコメントを受け付けられるよう、IFCは環境情報(カテゴリーAは環境アセスメント報告、カテゴリーBは環境情報)を一般に公開する。またプロジェクトスポンサーには現地での意味ある情報公開を義務づけている。公開後に環境アクションプラン(カテゴリーA)や環境レビューサマリー(カテゴリーB)がアップデートされた場合には、それらも順次公開の対象となる。
プロジェクトスポンサーがこの情報公開のプロセスに反対する場合、IFCは当該プロジェクトに関する作業を中止する(ただしカテゴリーBについてのみ、特殊な事情があれば情報公開関連日程の変更が認められることがある)。
・投資部はアプレイザルを経たすべてのプロジェクトについて、プロジェクト情報サマリー(SPI)を作成し、理事会の30日前までにホームページ及び世界銀行InfoShopを通して公開する。SPIはプロジェクト名、立地、企業の名前と概要、プロジェクトの概要、目的、コスト、カテゴリー及び環境情報の要約を含む。
カテゴリーA
・IFCはプロジェクトスポンサーの合意を得て、アセスメント報告書を世界銀行のInfoShopを通して一般公開する。これはできるだけ早く、理事会決定(またはクロージング/マネジメントレベルの許可)日程の少なくとも60日前に行われなくてはならない。追加的に行われた重要なコンサルテーションについても文書の公開を要求することがある。
・プロジェクトスポンサーは、EAのドラフトをできるだけ早く、IFC理事会(またはクロージング/マネジメントレベルの許可)の少なくとも60日前までに広報してステイクホルダーがアクセスしやすい公共の場に公開する。ドラフトには、最終的なEAに対してIFCからつけられた注文等も含まれる。さらに非技術的EAレポートの要約も現地の言語で提供されなければならない。
カテゴリーB
・IFC環境部は、プロジェクトスポンサーが提出した環境分析を検討した後、重要な環境情報を記載する「環境レビューサマリー(ERS)」を作成する。ビジネス面での(国際)競争に関わる極秘事項を除き、IFCは同サマリーをINFOSHOPを通じて公開する。これは、IFC理事会(またはクロージング/マネジメントレベルの許可)の少なくとも30日前に実践されなければならない。
・プロジェクトスポンサーは、環境レビューサマリー及びIFCの要請によって住民協議が行われた場合にはそのレポートを現地で公開し、また、関連する住民団体のアクセスが可能となるように、現地の言語に翻訳するなどの配慮が求められる。この一連の作業も、IFC理事会(またはクロージング/マネジメントレベルの許可)の少なくとも30日前に実践されなければならない。
6 モニタリング、監督、評価
1)モニタリング・監督
IFCはプロジェクトの社会・環境パフォーマンスのモニタリングを、通常@スポンサーが提出する年間モニタリングレポートのレビューA投資部と技術環境部の合同監督ミッションB環境部のサイト訪問、のうち一つ以上の方法で行う。
投資部スタッフは技術専門家、環境社会専門家との協力・協議の上、監督レポートの中で、プロジェクトが環境社会配慮の要件を満たしているかを報告する。また年間モニタリングレポートが環境部にわたるようにするのも投資部の責任である。環境部は報告をレビューして環境要件が十分に実行されているかどうかを判断し、もし不十分であれば必要な活動を投資部・法務部と協議する。投資部は問題が解決されるまでフォローアップに責任を負う。またこれらの監督状況は最低1年に1度は監督レポートによって報告されなければならない。
2)評価
IFCはいくつかのプロジェクトについて投資アセスメントレポートを作成し、実際に発生した社会環境影響を当初予測された影響と比較して評価し、取られた緩和策等についても評価を行なう。環境部はこれにコメントをしてドラフトを確認する。
7 環境部の役割(図2:環境レビューステップを参照)
- 技術環境局環境部は、プロジェクトの社会・環境レビュー、社会・環境面からの正式なクリアランスおよび監督に責任を持つ。正式なクリアランスとは、提出された情報に基づきプロジェクトが計画通りにかつ適切に実施・運営された場合、IFCの政策やガイドラインを満たすかどうかを判断するものである。各プロジェクトには1名の環境専門家が割り当てられる。スタッフは専門知識を用いてプロジェクトが適切な基準やガイドラインを満たしているかを判断し、必要に応じて世界銀行との調整も行いつつ、投資部に対し問題を指摘し、スポンサーにガイダンスを提供する。
- 投資局は社会・環境面も含めたプロジェクトの全体的パフォーマンスに責任を持つ。投資局長は環境・社会クリアランスを得てアプレイザルの結果に基づき、プロジェクトを進めるかどうかの決定に責任を持つ。アプレイザル後にも重要な社会環境問題が見出される場合は、副総裁、技術環境局、法務局、投資局が、プロジェクトが承認されるほどこれらの問題が十分に対処されたか判断する。
- 技術部の専門家は投資局、環境部及びスポンサーに対し技術面でサポートを提供する。法律専門家は、プロジェクトに関する法的文書で環境・社会要件を定める場合等、法律面に関するサポートを行う。
- 環境・社会配慮をIFCのオペレーションによりよく統合し、高いパフォーマンス基準を保つため、IFC副総裁は、社会・環境問題や情報公開関連事項について総合的な監督権を持つ。技術環境部部長はIFC副総裁に報告を行う。
- アプレイザル後、プロジェクトの環境情報は月間オペレーションサマリー(MOR)に記載され、これにより最終決定を下す理事会メンバーは、できるだけ早い段階から関連情報を知ることができる。
8 政策順守の確保
Compliance
Adviser/Ombudsman
IFCはプロジェクトにおける政策の順守を確保し、また個別の問題解決をはかるために98年にCompliance
Adviser/Ombudsman(CAO)を導入した。CAOはIFCの管理部とは独立し、世銀総裁に直属する。その役割は下記の通りである。
・環境・社会影響が懸念されるプロジェクトへの対応に関するアドバイス
・苦情申し立ての処理
・社会・環境に関する全体的パフォーマンス及びプロジェクトの監査の統括
・環境・社会政策や手続き等に関するアドバイス
・特定のプロジェクトに関するスタッフへのアドバイス
9 特殊形態ローンに関する規定
(1)FI(金融仲介)ローン
IFCが民間銀行などの金融仲介を通して間接的に支援を行う形態(銀行へのコーポレート・ローン、クレジットライン、プライベート・エクイティ・ファンド等)。仲介金融機関が行う特定の「サブプロジェクト」を支援する案件の場合にはそのプロジェクトが、仲介機関の一般的活動を支援する案件についてはその機関の環境パフォーマンスが審査の中心対象となる。
環境に悪影響を及ぼす可能性のあるサブプロジェクト、あるいはそのようなサブプロジェクトが行なわれる可能性がある場合は、IFCはプロジェクトはカテゴリーFIに分類する。この場合、仲介機関は十分な環境マネジメント能力を備え、サブプロジェクトの承認前に、実施国等の環境条件を満たしていること、IFC政策に適っていることを確認しなくてはならない。またサブプロジェクトのスポンサーが適切なEAを行なうことを確認するよう要求する。特定のサブプロジェクトを対象としない融資であっても、環境に影響を与える活動が行なわれると考えられる場合には、その機関に環境トレーニングを要求することもある。カテゴリーAにあたるサブプロジェクトについては、アセスメントレポートが影響を受ける人々や現地のNGOがアクセスできるよう公開されることを仲介機関が確認する。
(2) (すでにあるプラント等の)拡張、近代化、改装
現在あるもの及び新規に制作されるもの両方を含むプラント全体の環境・社会審査を行う。IFCが融資する新規分についてIFCの環境政策に沿うのはもちろんのこと、通常は独立コンサルタントによる既存施設の環境監査をプロジェクトスポンサーに求める。その結果によって、既存施設分についてもIFC政策に沿う物にするようなプログラムの実施を求めることがある。
(3)民営化
IFCは通常、プロジェクトスポンサーに独立コンサルタントによる既存設備の環境監査を求め、その結果に応じてIFCの環境政策・ガイドラインに適うようなプログラム実施を求める場合がある。新規設備への融資を含む場合はその分に関して環境審査を行う。また民営化が雇用や公共サービスの質に関して大きな社会影響を与えると考えられる場合には、十分な情報提供を求めて考慮する。
(4)コーポレートインベストメント
一般的な企業活動の投資案件については、プロジェクトスポンサーの総合的な社会環境パフォーマンスをアセスし、必要であれば環境マネジメント改善・強化のための勧告を行う。この場合は独立の環境監査を行い、必要なプログラム実施について協議・合意する。
|